篠原りかのブログ

医療、福祉、行政のあり方について勉強中。医療的ケア児の息子を愛でて育てています。

社会福祉の最前線

 医療的ケアの必要な息子との生活は、多くの医療職、福祉職の皆さんに支えられています。息子が生まれたことで、福祉という世界に関心を持ち、詳しく学ぶため、社会福祉士の資格取得に向けて養成施設に在籍しています。

 社会福祉士の資格取得の過程で、実際の福祉現場でソーシャルワークの実践について学ぶ実習があり、私もある区の社会福祉協議会において約1か月間実習させていただきました。

 

 社会福祉協議会とは、地域福祉の増進を図ることを目的とする非営利の民間団体で、住民や民生委員、児童委員、町会・自治会、社会福祉関係団体や行政など関係機関と連携して地域福祉を増進する役割を担っています。

 恥ずかしながら、私は息子が生まれ福祉に関心を持って初めて、社会福祉協議会という存在を知りました。各都道府県、各市町村にそれぞれ組織されていて、事業としては主に生活に困っている個人個人に対する個別支援(成年後見制度の利用支援、障害等で判断能力に不安のある人を対象とした日常生活自立支援事業、福祉資金の貸し付けなど)と、地域で福祉活動に従事する人を支える活動者支援(ボランティア活動の支援や育成、高齢者等のサロン活動の助成など)を行っています。

 

 実習中は、日常生活自立支援事業の利用者宅訪問に同行し、生活保護世帯の方、心身に障害をお持ちの方、認知症の方などの暮らしの様子を拝見させていただき、直接お話させていただく機会を多くいただきました。

 また、ボランティア養成のための研修や、社会貢献型後見人の研修、活動報告の場などにおいて、参加者のみなさまに地域活動に参加しようと思ったきっかけやモチベーション、活動を通して感じる課題を直接伺うことができました。

 さらに、複数の課題を抱えているなど問題が複雑ですぐに行政の支援につなげることが難しい場合や、制度の狭間のケース等において、社会福祉協議会が中心となり解決に導くために粘り強く他機関との連携を進めていることなどを知り、社会福祉協議会が地域福祉において最前線でありかつ最後の砦ともいうべき重要な役割を担っていることを学びました。

 

 私が福祉、行政に関心を持った最初のきっかけは、医療的ケアの必要な息子が生まれたことで、早々に育休から復帰し育児と仕事を両立させる、というこれまで当たり前だと思っていた社会生活を送ることができなくなったこと、そのような現状を変えていきたいと思ったことでした。

 実習を通して、医療的ケア児のようなある種マイノリティの人々だけでなく、子供が引きこもりになってしまった人、遠方に暮らす親の介護が必要になってしまった人、パワハラを受けて鬱病を患った人など人生で予期しない出来事が起きて壁にぶつかってしまう人はこんなにも多いのだということに気づかされました。

 人生で予期せぬ壁にぶつかるのは特別な誰かではなく、誰にでも起こりうること。だからこそ、安心して生活を営んでいける環境整備が必要なのだと改めて痛感しました。

 

 そして実習でお世話になった職員さんの言葉にも大きな気づきがありました。

「時代の変化や都市化で人間関係が希薄化しているなかで地域共生社会の完全な実現は難しいけれど、地域福祉の重要性や福祉の気持ちの大切さに気付く人を少しずつ増やしていくことで、少しずつ社会をよくしていくことができる。一度に全ての碁石を白にすることはできなくても、すべてが黒になってしまわないように攻防する、ということが私たちの仕事なのだ」

 強者の論理の世の中で、支援を必要とする人への冷たい視線や無関心はなくなることはありません。私も、息子が生まれるまでは真正面から向き合って考えることがなかったように思います。しかし、息子のおかげで福祉の重要性に気付き、また一部の人だけのものではないのだと気づくことができました。

 支援が必要な他者への温かな気持ちを持つには、社会全体にゆとりが生まれ、寛容さを持てる状況になることも必要です。すべての碁石が黒になってしまわない制度づくり、社会づくりを目指していきたいと思います。